Introduction by Chris Kornman
紹介 by クリス・コーンマン

コロンビアでは有名な、カリのサルサダンスの中心地から約100km北上したところに、ヘレラ兄弟(ルイスとリゴベルト)が共同運営する農場があります。ここは、彼らの家族が三代にわたってコーヒーを栽培してきた場所です。このクラウン・ジュエル はブエノスアイレスで最近収穫されたゲイシャのなかでも代表的なものとなります。ブエノスアイレスは、前回の収穫期にクラウン・ジュエルのゲイシャとして選ばれた豆が生産された、コロンビアのヴァッレ・デル・カウカ(直ぐ南に位置するカウカの別の地域と混同しないよう、ご注意ください)に位置するセロ・アズールからはさほど遠くありません。バレ・デル・カウカの東は、コーヒーの豊かなトレミアとの境となっていて、西岸にはブエナベントゥラ港があり、そこから大量のコーヒーが輸出されています。

ヘレラ兄弟の農場は、グランハ・ラ・エスペランザの傘下としてセロ・アズール、ラ・マルガリータ、ラ・エスペランザ、ポトシ、そしてハワイにあります。それぞれの農場は、兄弟の父親(1945年にイエローとレッド・バーボン、カトゥーラー、そしてティピカを取り入れて最初にコーヒーを多様化した)によってもたらされた革新とスチュワードシップを個性的に示しています。

リゴベルトは、謙虚さ、情熱、そして膨大な栽培知識を感じさせる人でした。なぜその地域独特の気候が、変わりやすい品種の栽培に適しているのか、といった農場に関することについて、我々にとても詳しく話してくれました。彼はパナマでコーヒー農園を1年間経営した後(その収穫時のパナマ品評大会にて優勝)、コーヒー好きが恋焦がれるパナマ・ゲイシャの種と共に家族の経営する農場に戻り、創業者の精神を受け継いで働き始めました。

風や日光、湿度や土壌、標高やその他の数えきれない植物の成長に影響を及ぼす要因に加えて、最低でも18から20時間の間、水中発酵させることによって水を使わずに果肉を取り除くといった精選処理の方法にも多くの注意が払われています。彼らは実際に風味のプロフィールを確認するため、水洗と乾燥処理の前に発酵度合いの味覚評価を行っており、これらの工程から作られるコーヒーは比類なきものです。

Green Analysis by Chris Kornman
生豆に関する考察 by クリス・コーンマン

ゲイシャ品種の意外な起源は、エチオピア西部にあるゲイシャの町周辺と言われています。コーヒーの実は収穫された後に、まずケニアに運ばれ、次にウガンダとタンザニアに、そして最終的には海を渡ってコスタリカの熱帯農業研究高等教育センターにたどり着きます。この施設は、1950年代後半から1960年代前半に木を育てるという情熱から設立されました。ここでの栽培、そしてパナマでの栽培直後は、生産性が低く品質が低かったため、大部分が破棄されました。今日では、この品種はばらつきが大きく、標高、降水量、土壌とその栄養成分、そしてその他無数の環境や、栽培上の要因との組み合わせによって左右されるという認識が一般に広がっています。早期段階の試みでは、ゲイシャの特徴とされる甘い花の属性を生み出すために必要な条件が不足していたこと、またはそれらの属性が今日のように評価されなかったことは明らかです。 いずれにしても、2000年代半ばにスペシャルティコーヒーが爆発的に広まった後、ゲイシャはコーヒーを取引する者たちの眼の輝きの一部となってきました。現在では伝説となりつつあるこの品種は、自らの運を試す多くの栽培者達に広まっています。

今回ご紹介するゲイシャは、ヴァッレ・デル・カウカのブエノスアイレスで栽培されました。ロングベリータイプの種子を持ち、標高の高いコロンビアのなかでは平均よりも密度が低く、安定した水分量を含んでいます。グランハ・ラ・エスペランサの多くのコーヒーのなかでは典型的ですが、含有する水分量を考慮すると水分活性が少し高くなっています。従って、焙煎時に1分ほど長くローストするということは、褐変反応に伴って甘味を引き出すうえでは悪くない選択肢かもしれません。一方で、豆の密度が低いということは、そこに到達するために余分な熱を必要としないことを示しています。

Roast Analysis by Jen Apodaca
焙煎における考察 by ジェン・アポダカ

ゲイシャは非常に香りがあるので、いつも焙煎をするのが楽しみです。しかし、ゲイシャ品種はその長い楕円形のため、焙煎士に挫折を味わわせる場合も多くあります。このゲイシャに関しては私が予想していたより密度が低く、以前に焙煎したものほど大きくはありませんでした。私の通常のアプローチは、エチオピアのコーヒーを焙煎する方法と同じように焙煎することです。この場合、全体的な焙煎時間は短く、爆ぜ後の時間も短くなります。しかし、このゲイシャは密度がさほど高くなく、ゆっくりとしたアプローチにうまく反応してくれました。結果としてこのコーヒーの花の香りの特性を保持しながらも、高めることができたと思います。一方、2回目の焙煎では乾燥段階で熱を加えてみることにより、更に甘くバランスの取れたカップを作り出すことができました。 どちらの焙煎結果も、このコーヒーのもつ元々の品質のため、素晴らしいものとなりました。酸味を強め、花のような特性の全てを引き出したい場合には、乾燥段階を長くして爆ぜ後の時間を短くすると良いかもしれません。

焙煎1回目:ジャスミン、ジンジャー、クランベリー、ローズ、桃ジュース、明るい

焙煎2回目:焼きネクタリン、ジャスミン、スパークリング・レモネード

Brew Analysis by Evan Gilman
抽出における考察 by エバン
ギルマン

このコーヒーを表現するのに、驚くほど柔軟で美味しい、という言葉以外には見つかりません。2通りの方法で焙煎した豆(PR-642とPR-643)を、合計4種類の近似した抽出時間と方法で抽出したところ、テイスティングを行ったうちの何人かは、全く異なる2種類のコーヒーを飲んでいると思ったほどです。我々としては、PR-643をボナヴィータで抽出したものと、PR-642をカリタで抽出したものが僅差でよいと感じましたが、正直なところどちらの焙煎も非常に満足のできる出来でした。さすがゲイシャというところでしょうか。2リットルのゲイシャを廃棄しなければならないこともありましたが、そのことを補ってあまりあるものでした。

備忘録として、カリタはPR-642からかなりのベリーと「赤い」(この表現に共感してくれる方々がいると信じつつ)フレーバーを引き出してくれました。このことは、我々がこのコーヒーを楽しむうえで重要だった気がします。私たちのテイスティングでは、ラズベリー、プラム、クランベリー、チョコレート・トリュフを感じました。

ボナヴィータは、前述した「赤い」フレーバーをPR-643の焙煎で更に強調しました。レモン・タルト感、アプリコット、プラム・ストーンフルーツ、そして輝くようにきれいな後味が、この焙煎に私たちを惹きつけました。PR-642はより花のように感じられましたが、輝きは少ないような印象でした。もしもバッチ・ブリュワーを使用して抽出された、熟した味を求める場合、PR-642はラズベリージャムのようになるかもしれません。